QynemaLens特集① 音のレンズが映すもの

QynemaLens:
(読み キネマレンズ)2024年に大阪で結成された3人組ユニット。
EDMの先鋭的なサウンドと邦楽ポップの叙情性を融合し、シーンの常識を軽やかに越える音を鳴らす。
結成からわずか数か月で世界最大級のバンドコンテスト「エマージェンザ大阪決勝」で優勝を果たし、実力と共感を同時に証明した注目の存在。
この特集では、彼らが生む革新の音楽と、その奥に宿る誠実な衝動を解き明かす。

上質なPopの核に潜む、革命の設計図

QynemaLens(キネマレンズ)は2024年10月、大阪で結成されたばかりのトリオだが、早くもインディーズシーンに鮮烈な足跡を刻み始めている。
2025年6月、世界最大級のバンドコンテスト「エマージェンザ」の大阪決勝で優勝を飾った彼らは、表面的な話題性や戦略に頼らず、上質なPopこそが人の心を震わせることを証明した稀有な存在だ。

彼らの音楽には、一聴して胸を打つ戦慄がある。それは決して「目立とう、売れよう」という欲に駆られた刺激ではなく、純粋に音を人に繋ぐための真っ直ぐな気持ちが音の芯に宿っているからだろう。
派手なパフォーマンスや演出を最小限にとどめ、あくまでも楽曲と演奏の力だけでステージを成立させてしまう誠実さは、現代のシーンではむしろ新鮮だ。

特筆すべきは、その完成度の高さだ。結成からわずか5か月にもかかわらず、楽曲の構造は驚くほど緻密で、海外のEDMシーンのシンセサウンドやトラックメイクを消化しつつ、邦楽ならではの叙情性を融合させている。
プロとして言えば、もっとシンプルで無難なコードに寄せても充分に成立するところを、彼らはあえて細やかなコード進行や和声を編み込み、旋律の陰影を描く。こうした設計は、おそらくバンドの中心的なキーボーディストの強い音楽理論的素養と感性がなければ到達できない領域だ。

ツインボーカルという編成も独特だ。男性ボーカルJIMAは、どこか風の便りのように柔らかく耳を撫でる声で、聴き手の心にそっと寄り添う。
一方、女性ボーカルAivviyはブラックカルチャーのルーツとEDMの高揚感、邦楽ポップのメロディアスな質感を横断する稀有な歌声を持つ。
二人の声が交わるとき、そのジャンルを定義しきれない混交感が生まれ、アートシティーポップという彼ら自身のジャンル呼称が決して誇張ではないと実感させられる。

「無謀な挑戦」と呼ばれてもおかしくない道のりだった。
バンドとしての初ライブがいきなり予選の舞台。週末だけの限られた練習時間。にもかかわらず、歴戦のバンドが揃うコンテストを、フロックではなく圧倒的な完成度と共鳴力で突破してしまう。その軌跡には、コンテスト常連ですら一目置かざるを得ない説得力があった。

SNSの戦略も巧みだが、最も強いのはやはり音楽そのものだ。
YouTubeに公開された「うたかたドライブ」の演奏は、リリース直後に3万再生を超えた。単に話題先行ではなく、「上質なPopこそ、真に届くメッセージを宿す」という信念が、多くのリスナーを惹き寄せているのだろう。そこには、懐かしさと同時に現代の音楽シーンを更新する瑞々しさがある。

プロの立場から見ても、今後が楽しみで仕方ない。商業音楽のど真ん中にいてもおかしくない楽曲の水準、型に収まらないジャンル感、そして音を人に繋ぐ誠実さ。久しぶりに、心から期待できるアーティスティックなバンドが現れた。
QynemaLensの歩みはまだ始まったばかりだ。この先、どれだけシーンを揺らしてくれるか、ぜひその目と耳で確かめてほしい。