QynemaLens 特集④ エマージェンザ、境界線とその進化の証明

QynemaLens:
(読み キネマレンズ)2024年に大阪で結成された3人組ユニット。
EDMの先鋭的なサウンドと邦楽ポップの叙情性を融合し、シーンの常識を軽やかに越える音を鳴らす。
結成からわずか数か月で世界最大級のバンドコンテスト「エマージェンザ大阪決勝」で優勝を果たし、実力と共感を同時に証明した注目の存在。
この特集では、彼らが生む革新の音楽と、その奥に宿る誠実な衝動を解き明かす。
エマージェンザが映す、未来の音楽地図
インディーズシーンの登竜門として知られる世界最大規模のバンドコンテスト、エマージェンザ。
その歴史は1992年、ドイツ・ベルリンから始まった。
「無名のアーティストに、観客と同じ目線で音楽を届ける場所を」という理念は、ヨーロッパを中心に瞬く間に広がり、今では36か国、150都市以上で予選が行われる一大イベントへと成長した。
だが、エマージェンザがここまで世界中の音楽ファンに信頼されるようになった理由は、単なる規模の大きさではない。
この大会は、インディーズという言葉に甘えず、メジャーシーンに通用する本物の才能を見極め、育て、送り出してきた実績を積み重ねてきた。
日本でも2000年代から着実に定着し、毎年数百組を超える挑戦者がそのステージに立ってきた。
ただ目立つだけ、ただ騒ぐだけのコンテストであれば、これほど長い年月、世界に支持されるはずがない。
それでも多くの人の「インディーズバンドのイメージ」は、どこか時代遅れの先入観に縛られている。
「目立って、あばれて、奇抜に盛り上げてなんぼ」――確かにそんな姿がフロアの熱をつくる夜もある。
だが、エマージェンザが本当に探し続けてきたのは、その熱の奥に宿る誠実さと普遍性だ。
本気で音を鳴らし、本気で届かせようとするバンドだけが、世界決勝の場であり世界基準の舞台となるドイツ・タウバタールの野外大型フェスへの出場に辿り着くことを許される。
それは単なる「よくできました」の称賛ではない。
世界のステージに耐えうるクオリティと、心を震わせるリアルを併せ持った者だけに贈られる切符だ。
そして2025年。
今年もまた、日本の決勝――Japan Finalが近づいている。
何百組の挑戦を勝ち抜いて、その座を射止めたバンドの一つの中に、今回取り上げた結成わずか数か月の新星トリオバンド、キネマレンズがいる。
彼らは決して派手な衣装や演出で目立つバンドではないのはご承知の通り。
むしろ現代のインディーズシーンにおいて、あまりに誠実で、あまりに真摯すぎるほどの音楽性を貫いてきている。
キネマレンズの演奏時にだけ生まれる「特別なキネマ旋律」
それらを武器に、彼らは世界最大のアマチュアバンドの祭典をJapan Finalまで、奇跡のように駆け上がってきた。
しかし、このJapan Finalの舞台は、彼らにとって間違いなく圧倒的に不利だ。
経験もキャリアも浅く、これまで多くのステージを重ねてきた老舗バンドたちに比べれば関東地区でのファンは皆無、まだ始まったばかりの物語なのだから仕方がない。
だがそれこそが、このエマージェンザ大会の価値を問う試金石になる。

決勝戦を照らすファンのLEDアクリルボード
キネマレンズのロゴが淡い光で浮かび上がる 熱を言葉にせずとも示せる小さな証が、胸元で揺れる

全ての挑戦者が揃うステージでの優勝発表の瞬間
決勝進出バンド全員がステージに立つ 緊張と歓喜が入り混じる顔の中に、それぞれの戦いの物語が刻まれている
エマージェンザはこれまで「商業主義に媚びないアーティストを評価する大会」と言われながらも、「インディーズのお祭り」のイメージを引きずる瞬間もあった。 だが、キネマレンズのように最初からメジャーの基準をクリアできるだけの洗練を備えたバンドが現れたとき、この大会はどう応えるのか。 「インディーズとしてよく頑張ったね」と片付けるのか。 それとも、将来の日本の音楽を背負う存在を本気で見極め採点され、エマージェンザ大会からメジャーにまで駆け上がる期待と希望を持ち世界に送り出す審査をするのか。
もし審査員が後者を選ぶなら、それはエマージェンザというイベントのもう一つの進化を意味するだろう。 ただの「インディーズバンドの祭典」ではなく、日本から世界へ良質で洗練された世界標準の楽曲演奏を届ける、真の国民的音楽イベントへの変革となるのだ。 キネマレンズのようなアーティスティックで覚悟のあるバンドが頂点に立てば、その瞬間を見た多くの無名の才能を持つアーティストやバンド達が「ここなら、本当に音だけで夢を掴める」と感じるはずだ。
それは、YouTubeに公開されたキネマレンズの「うたかたドライブ」の再生回数が7月3日現在、4万7千回を超える注目の高さが証明している。
これからまた新たな挑戦者が集まり、この大会は一層大きな意義を帯びていくだろう。
うたかたドライブ / QynemaLens
(EMERGENZA JAPAN 2025 大阪セミファイナル)
その意味で、今年のJapan Finalは、単なる一夜の決勝戦ではない。
これまでの「インディーズバンドの通過儀礼」を超えていく、新しい音楽文化の幕開けかもしれない。
審査員の票がどこに集まるのか、その一票一票が、未来の地図を描いていく。
結成間もないキネマレンズが不利を跳ね返し、ドイツ・タウバタール行きの切符を手にするのか。
それともまだ既存の価値観が勝つのか。音楽業界人皆が着目する、とても興味深い大会になることは間違いない。
その結末を、同じ時代に立ち会えることに、プロアマ関係なくただのいち音楽ファンとしても興奮を隠せない。
2025年7月12日、Japan Finalきっとこの夜は、ずっと語り継がれる。
そして、それを見届ける私たち自身も、その物語の証人になるのだ。