QynemaLens 特集③まだ誰も見たことのないポップの輪郭

QynemaLens:
(読み キネマレンズ)2024年に大阪で結成された3人組ユニット。
EDMの先鋭的なサウンドと邦楽ポップの叙情性を融合し、シーンの常識を軽やかに越える音を鳴らす。
結成からわずか数か月で世界最大級のバンドコンテスト「エマージェンザ大阪決勝」で優勝を果たし、実力と共感を同時に証明した注目の存在。
この特集では、彼らが生む革新の音楽と、その奥に宿る誠実な衝動を解き明かす。
商業を超えて届く音 ─ キネマレンズの戦略なき強さ
ポップというジャンルは、軽やかで聴きやすいがゆえに、すぐにビジネスの論理に絡め取られる。
だがそれでも、商業と距離を置きながら本物の共感を生むバンドがいる。
この業界で20年音楽に携わってきた立場から言わせてもらえば、彼らの楽曲が生む熱狂は単なる「話題」ではなく、リスナーに届く設計を持つポップスの力そのものだ。
QynemaLens(キネマレンズ)は、デビューからわずか数か月でコンテストの頂点に立った。
歴戦の人気バンドを抑え、大阪決勝で堂々と勝利を手にするまでの軌跡は、後から振り返れば「まるで用意された映画の脚本のようだ」と言われるかもしれない。
しかし、実際に聴いていると、その音の説得力は数字やストーリーをはるかに超えている。

エマージェンザ大阪 Semi Final
セミファイナルの舞台は、緊張と期待が混ざる独特の空気感に包まれる。誰が抜け出すのか、観客もまだ知らない
彼らのサウンドに触れてまず驚かされるのは、ジャンルの境界を超えた洗練だ。
コード進行やトラックメイクは一見シンプルに聴こえるが、奥に複雑な層を隠している。
海外EDMのシンセの質感、ブレイクの緩急、ギターの叙情性、どの要素も過剰に主張しない。
それなのに、「ここでしか鳴らない音色」が確かにある。
これは、良質な情報だけを選んで取り込み、自分の言葉に置き換える才能の証だ。

決勝戦オープニング曲「Crazy Night」では分厚いシンセが空間をDISCOTICに塗り替える
Aivviyの演奏はキーボーディストとしての表現力を余すところなく放つ
音が立ち上がるたび、観客の視線が吸い寄せられる
ときどき、ジャズやタンゴ、ヒップホップの断片が不意に覗く。
そうした引用のバランスが絶妙で、まるでプロのコンポーザーが「まだ何かを隠している」とでも言いたげに振る舞っているような余白を残す。
多分この先、さらにいくつもの引き出しが現れるだろう。
私も過去に無数のバンドを見てきたが、コンテストで一度は「自己満足のノイジーな曲」を数合わせに混ぜる若手は多い。
それをすることで空気を掻き回し、爪痕を残した気になれるからだ。
だが、キネマレンズはそれを選ばない。
余計な曲を混ぜず、最後まで音楽の誠実さだけで勝負する強さは、むしろ恐ろしいほどの覚悟を感じる。
商業の視点で言えば、こうしたブランディングも極めて強い。
異業種のメンバーが週末だけで音を研ぎ澄まし、戦略の代わりに「音だけで評価される場」を選び、実際に勝ち抜いた物語は、共感資産としても希少価値が高い。
だがそれ以上に、このバンドの本質は、流行に寄せることなく「自分たちのポップ」を鳴らし続ける気概にあるのだろう。
きっと、次にリリースされる曲も、また別の角度からリスナーを驚かせる。
その驚きが、やがて長く聴き返される記憶になる。
この先、彼らがどこまで音楽業界の景色を変えるのか、それを見届けられることが、いま少し誇らしい。